アトランタPRUMC教会プロジェクト
タローズ折り紙スタジオでは10年以上に渡り、多種多様なプロジェクトに取り組んできました。 巨大な等身大の動物像や, クルーズ船のレプリカ, 高級車のコマーシャル, そして 特注のウインター・ワンダーランド など……
どれもユニークなプロジェクトばかりでしたが、今回ご紹介する私たちの最新のプロジェクトは計画に2年以上を費やした、これまでの仕事の集大成といえる作品です。
アメリカ・アトランタの美しい教会、Peachtree Road United Methodist Churchに設置されたこの作品は、地元コミュニティの皆さんとの協働のもと、私たちTaro’s Origami Studioの最高傑作に仕上がりました。
シニア折り紙デザイナーのFrank LingとBen Friesenの2人はこの2年の間、折り紙によるインスタレーションとしては最大級の作品の企画立案、サンプル製作、修正、テストに取り組んできました。この記事ではこの巨大なアートをいかにして完成させたか、その舞台裏をご紹介します。
1. ブレインストーミング &
実地調査
2022年後半、タローズ・チームは興味深い依頼を受けました。 アトランタの教会が100周年記念式典を計画しており、その式典のために 以前ワシントンD.C.で展示された作品のような、壮大な折り紙の鳩のインスタレーションを依頼したいというのです。
私たちはこれはたいへんエキサイティングなチャンスだと感じ、すぐにスペースを見に行く計画を立てました。 そこで私たちが目にしたのは、壮大で洞窟のような聖堂でした。埋め尽くすには何千羽もの折り紙の鳩を必要とします。シニアアーティストのFrankは、空間全体をコンピューター上にレンダリングで再現し、インスタレーションに命を吹き込む方法を探る作業に取りかかりました。
まず始めに、チームは今回のインスタレーションに最適化した折り紙の鳩を作り出す必要がありました。まずは20メートル上空にあっても鳩と認識できる大きさとデザインであること。また、設置期間が数ヶ月間に及ぶため、その間に垂れ下がってしまわないようしっかり紐で固定できる必要がありました。鳩のデザインが出来上がると、今度はそのコンセプトを伝えるためにさまざまなアプローチが考えられました。最初のアイデアは、何筋もの鳩の群れが絡み合いながら天井に向かって旋回するものでした。
2. 設計の見直し
タローズチーム側での最初のデザインが出来たら、次は数回にわたって教会側との話し合いが重ねられました。最初に考案した計画でうまくいきそうな点、改善が必要な点を洗い出し、そのために何を追加する必要があるかを話し合う必要がありました。当初、教会側は500羽の鳩で十分だと考えていましたが、コンピューター上のシミュレーションを見て、すぐに1,300羽以上に増やすことになりました。次に大きなハードルとなったのは、これらの鳩に生命を吹き込むために、空間内にどのように設置するかを考えることでした。この時点でFrankは、建物内の構造のさまざまな部分に糸を垂らして複数の鳩を設置する、よりわかりやすいセットアップに移行しました。 この方向性によってセットアップと設置は非常に簡単になりましたが、最初のシミュレーションのような複雑な設置の仕方は現実的には非常に難しいことがわかり、諦めざるを得ませんでした。
3. デザインの完成と設置工程
最終的な調整のため、製作チームは再度現地アトランタを訪ね、関係者全員とのミーティングを行いました。照明、建築、音響、聖歌隊、プロジェクション・マッピング、リフト、足場、冠婚葬祭式典の進行担当者、教会職員の代表が同席し、全員の立場からデザインに問題が無いことを確認しました。 最終的なデザインとしてFrankは、すべての鳩を地上で取り付け、その後上空の設置場所にワイヤーで吊り上げる素晴らしいシステムを開発しました。
この滞在中、製作チームは必要な足場の場所や設置数を把握し、設置プロセスを計画し、折り上がった鳩や、紙やワイヤーの素材のサンプルを見せて教会チームに確認してもらいました。 さらに、エンジニアリング・チームから適切な取り付け金具の承認を得て、インスタレーション全体の設置開始のゴーサインを得ました。
4. 実際の展示作品の製作
すべてのデザインが確定し、いよいよ、私たち製作チームが最も得意とする段階がやってきました −−実際に折り紙を折る工程です!
プロジェクトの完成に向けて、1000羽以上の折り紙の鳩の製作が始まりました。サイズは12インチ、14インチ、16インチの3種類です。大きな鳩を下の方、小さな鳩を天井近くに設置し、上に行くほど小さくすることで遠近感を強調します。
上の写真は紙の裁断、組み立て、尾の固定、ワイヤーの配線などの製作の様子です。
裁断や組み立ての作業は、シニア・アーティストのBenとJeffがひと夏をかけて進めました。BrooklynスタジオのFrankは鳩を吊るす機構作りに集中し、同じくBrooklynのSaiがワイヤーの部品の作成を担当しました。
5. 設置テスト
今回のプロジェクトでは、現地での限られた作業時間で確実に設置を完了できるよう、Brooklynスタジオで可能な限りのものを事前に製作することにしました。BrooklynスタジオがあるニューヨークのJapan Villageで十分なテスト用スペースを確保し、実際のワイヤーネットを設置して、すべての取り付けポイントを完璧に仕上げます。今年初めに作成したバージョンでは、鳩を適切な高さで留められるように、網を上げ下げするための引き手を使用しました。しかし時間が経つと鳩が落ちてくるなど問題があったため、このテストスペースで数日間試行錯誤を繰り返しました。最終的に鳩が地面に落ちることなく、美しく展示する方法を編み出しました。
6. 設置機構の微調整
過去の同様のインスタレーション・アート製作の経験から、Frankはテストスペースにより耐久性のあるワイヤーグリッドを設置することにしました。これにはソリッドボトルとターンバックルを使用し、ネットを壁にしっかり固定します。このテストスペースでの作業は数週間におよびました。製作チームはここで6つに分かれたワイヤーネット全てにケーブルを通し、結びつける作業をしました。1000羽以上の鳩を取り付ける場所をひとつひとつ確定し、現地でスムーズに取り付けられるよう下準備を行いました。これによって現地での最終的な作業が素早く行えるようになったほか、より安定して設置できるようになりました。
7. 現地での設置に向けた準備
いよいよアトランタへと飛び立つため、6つのワイヤーグリッドすべての最終調整を行います。綿密な設計図に従って、1匹1匹の鳩にX, Y, Zの座標を割り振りました。XとYはワイヤーグリッド上での位置、Z座標は鳩を吊るす紐の長さを表します。Brooklynスタジオのスタッフ総出で慎重にサイズを測り、輸送中にワイヤーが絡まないよう慎重に梱包作業を行いました。
8. 実際の設置作業
長きにわたったデザインと製作のプロセスを経て、ついにTaro’sから4人のアーティストが、アトランタに降り立ちました。Frankは輸送に万全を期すため、自らトラックを運転して、すべての折り上がった鳩と設置機材をニューヨークから運びました。
現地で設置作業に使える時間は5日間しかありません。製作チームは計画通りにワイヤーグリッドを設置し、リードワイヤーに固定し、事前にマークした位置に吊り下げ用ワイヤーを一本一本取り付け、1000羽以上の鳩を設置しました。私たちの経験上でも類を見ない大掛かりな作業でしたが、幸い遅れや大きなトラブルは無くプラン通りに進みました。
PRUMC教会チームと現地アトランタの施工スタッフの協力により、6つのワイヤーグリッドすべてをこの週のうちに取り付け終えることができました。設営の様子のタイムラプス動画と、作業中のアーティストたちの写真をご覧ください。
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9. 完成
ついにこの壮大なプロジェクトが完成しました!荘厳な大聖堂に1000羽の白い鳩が舞い、愛と平和を祈る場にふさわしいインスタレーション・アートとなりました。
翌日曜日にはさっそくこの大聖堂で式典が行われました。下のギャラリーは式典の様子です。
Taro’s Origamiのスタッフ一同、アトランタPRUMC教会と地元の皆さんの夢の実現に参加できたことを、たいへん光栄に思っています。
この作品は2025年6月までPRUMC大聖堂で展示され、誰でも見ることができます。見学ツアーもありますのでぜひ参加してみてください。